東京そぞろ歩き(1)石神井公園の散歩

東京そぞろ歩き()

 

石神井公園の散歩

                                  坂本弘道     

鳥のさえずり

 

 石神井公園駅には、西武池袋線の急行で池袋から10分で到着だ。以前、公園駅は地上に在って、近くの横断踏切が渋滞したが、高架になって駅も二階に移動した。駅では、鳥のさえずりを流している。眼の不自由な人向けのようだが、公園の駅にはぴったりだ。

その高架下もスーパーやカフェに利用され、しゃれた店の並ぶストリートとなった。公園の入り口は駅から歩いて8分だ。

私は、この公園に歩いて15分の,,練馬区石神井台に住んで35年になる。

コロナ禍で巣ごもり中の最近、石神井公園での散歩は、私の生活の一部になっている。我が家を出て、公園を一周して戻ると、ほぼ7,000歩だ。歩くにも丁度良い距離だ。

 

梅雨晴れや果てぬ巣籠り禍を福に        弘道

 

自然のままの姿が

 

 石神井公園には、三宝寺池と石神井池(ボート池)がある。三宝池の方は、歴史が古く、江戸時代以前から武蔵野の湧水池だった。

最近は自噴とはいかず、地下水をポンプでくみ上げている。周りは、小高い森が続いている。高い木は、全体で7,500本にのぼる。欅、橡、桜、梅等のほかに、メタセコイヤやラクウショウの大木も数多い。

  三宝寺池には「三宝寺池沼沢植物群落」がある。1935年に、国指定の天然記念物になった。夏には、河骨が黄色い花を付ける。秋には、蒲の穂も白い綿毛となる。

  ボート池の方は、1933年(昭和8)に水路と田んぼを掘りこんで新たに造成された。道路側の水辺に沿って、柳が植えられている。休日には、ボートや足こぎの白鳥型の乗り物でにぎわう。

その隙間を縫って、模型船が走り回る。煙を吐いている蒸気船もみられる。マニアが、自慢の船を操作しているのだ。

ザリガニが多くて、子供たちが糸にするめを付けて釣り上げている。はさみで、するめを挟んだところを引き上げている。するめと糸は、売店で売っているのだ。

 野鳥も数多い。鴨はすっかりなついて、平気で歩道に出てくる。カワセミは、写真マニアが追いかけている。水辺の一角に枝の突き出た木があって、そこに止まるのを、カメラが並んで待ち構えている。

 

カワセミがこちらを向いてハイポーズ  弘道

 

。三宝寺池に張り出した木造の館に、人だかりがしている。水面の鴨の動きが鈍い。何だろうとみると、遠くの高い木の上になんと熊鷹が止まっている。熊鷹は、絶滅危惧種で、保護されており、ここでみられるのは、うれしいことだ。私は以前、ダムの建設に携わったことがあり、熊鷹の巣を大切に見守った。

周りにカラスが寄ってきて集団で威嚇し、たまらず熊鷹は逃げ出した。カラスは賢い。

 

熊鷹の睨みに水面静まれり  弘道

 

 

 キツツキもいる。雉鳩も道路のあちこちをうろうろする。我が家の桃の木にキツツキが穴をあけたこともあり、また、庭に落ちていた雉鳩の雛を1か月近く育てたこともあった。今も時折我が家の近くに雉鳩が来る。育てた鳩の子孫かなとも思う。

 

夕方時の公園

 

 散歩は、暑さを避けて、日暮れ時になる。歩くコースは決まっていて、西の森の方から入り、三宝寺池を通り抜け、ボート池を一周して富士街道の方に戻ってくる。

 夕方、森のベンチで、猫に餌をやっている人がいる。紙の皿を並べ、キャトフードを入れている。猫が4~5匹寄ってきて、懐いている。どの猫も太っているところを見ると、食糧は十分足りているようだ。それにしても、野良猫に餌をやるのはいいことなのかとも思う。

 三宝寺池の中にある島の立木には、10羽近くのゴイサギが枝に止まっている。ここがねぐらなのだ。島だと猫も来ないし、集団だと万が一天敵が表れても、大丈夫というわけか。

 カラスも、盛んに飛び回る。彼らのねぐらは、池の周りの森の中だ。

 鴨はどうしているか、薄暗い水面を透かして見ると、岸辺から少し離れた水面で、頭を羽の中に入れてじっとしている。水の中で夜を過ごすのだ。ボート池では、暗くなっても時折、羽ばたきが聞こえる。周りの明かりを利用してのことなのか。

 

駆除される外来種

 

 どこの地域でも、外来の生き物が繁殖して生態系を変えるということで、問題になっている。石神井公園でも、外来の魚が増えて、捕獲している。公園の職員が網で生け捕りにしている。

 一時、ワニが生息しているとの噂があり、新聞で話題になった。東京都は通路と池の境界に設けられた柵に、金網を設置したことがある。小さな池の中の餌場に肉を置いて、おびき寄せようとした。かたずをのんで見守ったが、幸いワニは現れなかった。カミツキガメを見誤ったのかもしれない。

 ワカケホンセイインコも増えている。飼われていた緑色で首回りに輪のある大きいインコだ。逃げ出して、自然繁殖したらしい。鳥は魚と違って捕獲しにくい。

 

武蔵野の面影を残す

 

 石神井公園は、武蔵野の宅地化が進む中で、貴重な緑を残している。管理の仕方を見ると、なるべく自然の姿を大切にしようという姿勢が見える。

 公園の隣にあった日本銀行の運動場が、練馬区の「松の風文化公園」に変わった。昨年の秋には、屋外で薪能が演じられ、鑑賞した。出し物は靭猿(うつぼざる)と葵の上だった。野村万作。萬斎、なつ菜の親子と孫の熱演だった。虫の声が野外に響き渡る涼しい夕方のひと時だった。今年はコロナの関係で、医療従事者等を中心に、小人数の参観で開催されるという。

 四季を感じながら歩ける場所が近くにあるのはうれしいことだ。

(俳句誌「波」掲載再掲)

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