東京そぞろ歩き(5)東京湾の夢の島公園

東京ぶらり歩き(5)


 東京湾の夢の島公園


坂本弘道

生ごみの埋め立て地だった夢の島
 地下鉄有楽町線、JRの新木場駅を降りると、夢の島公園方向の表示があった。それに沿って湾岸道路の下をくぐり、歩いて十数分で夢の島公園に着いた。
ここは昭和32年からは、東京都民のごみの埋め立て地となった。広大な海面に生ごみがどんどん持ち込まれた。何回か火災を起こし、埋め立ては昭和42年まで続いた。昭和40年には積まれたごみの山から蠅が大発生し、近辺の住宅に飛し大きな社会問題となった。
 ごみの埋立地夢の島は、昭和53年からは夢の島公園として開設された。以来、42年が経過した。

大きな樹木が立ち並ぶ
 公園への立ち入りは自由で、入場料はいらない。まっすぐな通路を挟んで沖縄でよくみられるデイゴの木が赤いカニの爪のような花を一杯付けている。何本も大きな木が有って見ごたえがある。東京も暖かくなったのか、沖縄と同じように育っている。
 マテバ椎などの大木が立ち並び、ここでごみの埋め立てが行われていたとは思えないような空間が広がっている。
 公園内に設けられた多目的広場コロシアムは真ん中が窪地になっており、周辺のスロープにはベンチがおかれている。スロープの草地にはたくさんのオオバコが見える。自然の草原の実現だ。

ジャガランタの花咲く熱帯植物園
 園内の熱帯植物園の敷地内では、薄紫色のジャガランタが満開だ。たった一本しかないが元気に育っている。アルゼンチン原産で元気に育つということで、火焔木、鳳凰木と共に世界三大花木になっている。
世界では南アフリカ、オーストラリア、メキシコなどで咲く。
 また、リュウゼツランの花が咲いている。まっすぐに伸びた数メートルのポールの周りを巻くように花が咲いている。数10年に一度咲くといわれ、ひとたび花が咲くと木そのものが枯れてしまう。根元に子孫を残すという。ここの敷地には依然咲いたものが、枯れたまま横たわっている。どういうわけかここでは毎年咲くという。どの木も順番に老木なのだろうか。

 大きな貯水槽には、睡蓮が植えられ、メダカが泳いでいる。一匹のカモが水浴びをしている。係員の話では、時折、飛んでくるもので、飼育しているのではない。 

熱帯植物園のドームの中は、世界各地の熱帯植物がみられる。ジャングルのような雰囲気だ。室内の温度は、同じ夢の島の中に設けられている清掃工場の焼却余熱で保たれている。
 補虫植物のコーナーもある。ねばねばした蠅取り紙のようなコケもみられる。もうせん苔は伸びた腕先を丸めて虫を捕る。植物もいろいろ考えて進化しているのだ。
 ヤシが実を付けている。バナナはまだ実がなっていない。マンゴーやパパイヤの木もある。イチジクのような実を付けた木があり鮮やかだ。
 熱帯園の中のレストランで、昼食をとった。メニューはグリーンカレー。バンコクで食べた辛めの味だ。東南アジアでは、ポピュラーだというハーブシードを飲んだ。マンゴーやライチの味がする果汁に、しその種バジルを入れた飲み物だ。

第五福竜丸展示館
 夢の島公園の一角に、第五福竜丸展示館がある。1954年(昭和29)の3月、太平洋上でマグロ漁をしていてアメリカのビキニ環礁での水爆実験に遭遇した漁船だ。
 危険区域外で操業していたが、水爆の威力が想定よりもはるかに大きかったのと、延縄を引き上げるのに手間取り、より安全な海域に逃げられず、船は放射能の強い灰を被り乗組員23名が被爆、そのうちの一人、無線長の久保山愛吉さんは半年後に亡くなった。
 この事件を契機に、日本の原水爆反対の運動は大きく広まった。第五福竜丸は、その後、東京水産大学の練習船はやぶさ丸となって活躍したが、昭和42年、老朽化し東京湾の埋め立て地の一角に放置された。これに対し、保護の声が高まり、この展示館の建設となった。
 展示室に入ると、古くなった木造の船が、部屋一杯に置かれている。入り口には、第五福竜丸の大漁旗が飾られている。船の総トン数は、140トン、長さ28.5m、幅5.9m、高さ15mの船だ。
舳先の左右には、第五福龍丸の文字がある。これは、展示されるために書き直されたのだろう。船体は白くペンキが塗られているが、下のほうは、潮に遭ったからか茶色に変色している。
 船体の右側の壁には、水爆実験の様子、福竜丸の被災状況、乗組員の状況など当時の様子が写真付きで解説されている。当時は、太平洋上で数多くの実験がなされたことが分かる。
 窓辺の空間には、新藤兼人監督が墨で書いた「第五福竜丸は今も生きている」の垂れ幕がかかっている。新藤監督は、被災の5年後に、第五福竜丸という映画を作成した。
 船の左側には、全国から送られた千羽鶴が、幾重にも重なってぶら下がっている。折鶴といえば、オバマ大統領が広島を訪れた際、4羽残していった。原水爆禁止のシンボルでもある。
 
多目的に生かされている夢の島
 公園には、このほかにバーべキュー広場、東京スポーツ文化会館、陸上競技場があり、明治通りを隔てて6つの野球場、江東区夢の島競技場などがある。夢の島は、公園としての役割と共に、スポーツの施設が整っている。スポーツ文化会館、合宿もできるように宿泊する部屋もある。
 夢の島は、ごみの埋立地からすっかり姿を変えてしまった。これから公園内の樹木ももっと大きくなり、壮大な森を形成するであろう。ビルばかりの東京にとって、夢の島公園は、貴重な緑の場として発展してもらいたい。(月刊コア修正)

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