東京そぞろ歩き(6)深大寺と神代植物公園

東京そぞろ歩き(6)

深大寺と神代植物公園

坂本弘道

深大寺

 東京都の調布市にある、神代植物公園を訪ねた。吉祥寺から、バスに乗って20分だ。蕎麦で名の通った、深大寺が傍にある。公園と寺院は、同じ「じんだい」と発音するが字が違う。公園は神代で、寺院は深大だ。

 深大寺は、インドに旅をした三蔵法師を守護した、深沙大王に由来すると伝えられている。深大寺は、紀元733年に創建された天台宗の寺だ。本堂は2回の火災で焼失、大正年間に再建された。

 正面左手に大きな栴檀の木があり、丸い小さな実を、鈴のように連ねている。白鳳仏と称する釈迦如来像が、平成29年に国宝に指定された。東日本最古の国宝仏だ。

 門前町の蕎麦屋に入った。天ぷら付の深大寺蕎麦がきた。

 

 この辺りは江戸時代、米があまり取れず、蕎麦を育ててお寺に奉納、それが世に知れて、全国的に有名になった。さすがに国産100%、腰のある蕎麦だ。

 茶店では温泉饅頭と草餅を買い、道端の縁台に座ってほおばった。素朴な味だ。

 

深大寺門前市の走り蕎麦   弘道

 

 深大寺周辺は、江戸時代には深代村と呼ばれていた。深代村は、明治22年に近隣の村と合併、神代町となった。その後、昭和36年、神代町と調布町が合併し、調布市となり神代の町名は無くなった。

神代植物公園

 神代植物公園は、東京府が昭和15年に防空緑地として周辺の農地を買収し、当時の地名から神代緑地と命名したことが発端だ。防空緑地とは、空襲を受けたとき避難する緑地のことだ。終戦後、緑地の4分の3が農地解放で農家に返還された。昭和36年、残った緑地の一部と新たに買収した土地を合わせて、神代植物公園として開園した。神代という名称は、公園に残るのみとなった。

 公園の一角に梅園がある。ここには、72種類180本の梅の木が植えられている。古来の梅も多い。この公園は、古い樹木の保存の役割も果たしている。紅冬至、八重寒紅、白牡丹、白難波、森の関等の名前が付いた梅がある。

 

俯きてほのかに香る梅の花   弘道

 

 天然記念物では、宮崎県産の湯の宮座輪梅、高岡の月知梅などもみられる。深紅の紅梅は、ひときわ目を引く。

 公園の一角の展示場では、梅の盆栽展を開いていた。それぞれ自慢の盆栽を持ち寄っている。250年前からの古木もある。山の中で偶然見つけ、長い年月絵を経て、盆栽に仕立てたという。巨大な本体はすっかり枯れて、尖った岩のようになっているが、その間から、元気な若い枝がいくつも出ている。花の付き方も見事だ。

 移動には、小さな枝を傷つけないように、細心の注意が必要とのことだ。盆栽を管理することは、並大抵ではない。旅に出て、水が枯れると一大事だ。

 

4500種の樹木

 園内は、30のブロックに分かれている。牡丹園、薔薇園、ツツジ園、椿、山茶花園、桜園等だ。梅園もその一つだ。

 薔薇は今、咲いていない。剪定された薔薇の枝が、暖かくなるのを待っている。ここには世界各地の薔薇が集められ、毎年コンテストも行われている。

 椿、山茶花園は、花を付けている。山茶花はそろそろ終わりだ。藪椿や寒椿は最盛期で、赤い可憐な花がみられる。

 園内に植えられたヒマラヤ杉や赤松の松ぼっくりがたくさん落ちている。杉の松ぼっくりとは言葉使いがおかしいが、実物は薔薇の花が咲いたような形をしている。クリスマスリースに、飾ったこともある松ぼっくりだ。

 入り口の展示コーナーでは、ボランテアの人が、世界の木の種の展示を行っている。その中に、大小さまざまな松ぼっくりがある。

 海外の松ぼっくりは馬鹿に大きい。日本の物の十倍はある。以前訪れたローマのコロッセウムの前に、植えられていた松の松ぼっくりも、カリフォルニアのも大きかった。

 クリスマスローズの、展示販売会も開いていた。八重の物や、花びらのちじれた新種も並んでいる。クリスマスローズは、我が家のプランターや鉢に幾つかあり、今多くの蕾を付けている。緑の八重咲も健在だ。案外育ちやすい。寒さに強く、だんだんと増えてゆく。

 園内の温室は、リニューアルしたという。多くの熱帯植物の中でも、ベコニアと蘭が見事だ。ベコニアは、まるでダリアかと思わせるような、大きな花を付けている。赤、白、黄色と色合いも様々で鮮やかだ。育てるには、15度Cから25度Cが適温だという。

 

温ぬくと巨大ベコニア枝垂れけり 弘道

 

 蘭も様々だ。暖かい環境で、ぬくぬくと見事に育っている。我が家にも、幾つかの蘭の鉢がある。案外この寒さでも、屋外で大丈夫だ。今年は、珍しく3つの鉢から、4つの蕾が出てきた。念のために部屋に入れている。徐々に蕾が大きくなってきた。いつどの色で開くか楽しみだ。

妖怪屋敷

 門前町に漫画家水木しげるの妖怪屋敷があるというので覗いた。水木しげるは、この近辺に住んでいたという。古びた木造の家屋の階段を上がると、二階の小さな部屋に、妖怪がいっぱい展示してある。

 「ゲゲゲの鬼太郎」や「砂かけ婆」等だ。それぞれの妖怪に、解説がしてある。漫画に出てきたおなじみの妖怪だ。

 水木しげるは、NHKの朝ドラでも取り上げられ、より名が知られるようになった。

 鳥取県の境港市が生まれ故郷で、市内に妖怪通りがあり、以前訪れた時は、多くの妖怪のブロンズ像が迎えてくれた。

 神代寺は、都心からそう遠くは無く、古い寺、植物園、蕎麦屋等があり、散策には良い場所だ。

(月刊『コア』掲載文を加筆修正)

 

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