東京そぞろ歩き(20)駒込の六義園

駒込の六義園

坂本弘道

柳澤吉保の別邸

 六義園は、JR山手線の駒込駅から徒歩5分の所にある。

 六義園は、徳川時代5代将軍、綱吉の側用人だった柳澤吉保が、作り上げた庭園だ。

 平坦な本郷台地に、池を掘り、小山を築き、川の流れも造った。吉保は、文芸学問を好み、風景も紀州和歌の浦や、万葉集、古今集の名勝を選んだ。園内には、88か(八十八境という)の名勝の景色を取り入れ、それぞれの場所に、その名を付けた石柱を立てた。現在も、その石柱が、27本残っている。


 そのようなことから、庭園は和歌の浦や、吉野山、妹山、紀ノ川等の風景を、見ることが出来る。

 六義園は、吉保の孫の3代信鴻(のぶとき)の時代に、庭園をさらに整備し、菊花壇を設けたりして、江戸の名園の一つに、数えられた。庭園は、藩士やその家族のみならず、紹介などにより、町民や農民も見物を許された。

明治時代は岩崎弥太郎邸に

 六義園は、明治時代になって、三菱の創業者岩崎弥太郎が購入して、庭園を修理した。佐渡の赤石や伊豆の石等、全国から石を集め、また千葉県の大量の樹木を植えた。

 園内に邸宅を建設、創設時の風景を保ちながらも、池の中に鳳来島を築造し、改築の手も加えた。ツツジの老木を利用した、ツツジ亭も作った。昭和13年には、岩崎家が、そっくり東京都に寄付した。六義園は、それ以来、一般に公開されている。

 

六義園吉保も観し躑躅かな              弘道

蛛道 ささがにのみち

 藤波橋から、周りを水路や池で囲まれた大きな島に渡った。水路に沿って細い道が、両脇をびっしりと隈笹に覆われながら続いている。この小道を、「ささがにのみち」という。

 道の由来は、和歌の神様である衣通姫の次の和歌にちなんでいる。

我がせこが來るべき宵なりささがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも

 この道には、蜘蛛の糸のように、細くても長く続きますように、との永遠の願いが込められているという。

 大きなドウダンツツジが日差しを受けて、赤く輝いている。光の当たり具合で、色が変わるという。紅葉も、そろそろ色着き始めた。紅葉は、日の当たるところから色着くという。まずは天辺からだ。なるほど、日の当たりにくい所は、まだ青々としている。

藤代峠

 大きな島の中に、周りの土を盛りあげて、小高い山が築かれている。園内で一番高い山で、標高35mだ。上りと下りの階段が別個にあり、混雑を緩和している。

 藤代峠は、現在の和歌山県海南市の、同じ名の峠を模している。峠の上が平らになっていて、ここから庭全体が見渡せて、池や島を眺めることが出来る。真ん中の中の島には、大小の石が置かれている。

 藤代峠に上る傾斜には、多くのツツジが植えられている。初夏には、見事な花を付けるであろう。

つつじ茶屋

 藤代峠を下り、山陰橋をわたり、なだらかな道を昇ると、「つつじ茶屋」だ。つつじ茶屋は、岩崎が購入後に建てた。支えている柱が、古いツツジの大木を使っている。いくつもの筋を束ねたような、大木のツツジの木が、ふんだんに使われている。入り口の三本の柱だけは、百日紅の木だ。これは、魔よけのためだという。

 天井の渡し柱もツツジだ。天井は忍竹をぎっしり編み込んで、竹に括り付けている。茶屋の周りには、長椅子が設けられて、ここに座って、ゆっくりと、周りの緑を見ることが出来る。

 茶屋の外には、平らな大きな石が置かれている。座禅石だ。座禅をするのに、よい位の広さで、上が平らなので、このような名がついている。

吹上の松と吹上茶屋

 池に沿って、大きな松の木が、そびえている。根元の石碑には、「吹き上げの木」と書かれている。木の幹が、池の方に倒れ掛かるように伸びて、垂れた枝を支え柱が受けている。

 太い幹に、筵が三本の縄で、しっかりと巻きつけられている。真ん中の綱の結び目は、梅の花の形に作られている。松の木の下には、以前笹が植えられていたが、松が痛むからと、取り除かれた。松竹梅とおめでたい組み合わせとしたものだ。松は、築園当時の物と、いわれる。

 この松の近くに、吹上茶屋がある。岩崎家が、熱海の別荘から移築したものだ。吹上茶屋は戦後造られたもので、敷石には、小さな赤石が敷き詰められている。

水分石

 庭の隅に、岩を積み重ねた一角があり、その上から水が流れ出している。途中で小さな滝となり、石の間を伝って、池に流れ込んでいる。ここが水源地だ。以前は、千川上水の水が引き入れられていたが、今は汲み上げられた地下水だ。水が透き通っている。石は、まばらに置かれ、水の流れを左右に分けて、美しく見せる役割を果たしている。水分石という。

 

しだれ桜

 正門の近くに、大きなしだれ桜がある。以前、夕方に訪ねたことがある。東京でも、此の枝垂桜は、夜桜の名所として有名だ。今は、はざかい期で、葉が紅葉に、なり始めている。

 

夕闇やしだれ桜に燈が入り              弘道

 

(月刊『コア』連載一部修正)

 

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